社会科授業づくり講座11月講座のご案内
日時 : 2025年11月16日(日)10:00~12:00
※Zoom によるオンラインでの実施(ID 等は後日連絡します)
参加費 : 500円(学生または年間費をお支払いいただいている方は無料)
テーマ 高校における地域の歴史とかかわる授業づくりについて
講師 小川 輝光さん(元高等学校教員)
内容
高校の授業は「受験のための準備」「教科書を教えるので精いっぱい」という声を聴きます。しかし、生徒が歴史を自分ごととして捉え、歴史にかかわりをもつためには、足元である地域を掘り下げることは大切な経験です。神奈川県を事例に、歴史の授業や総合学習、クラブ活動など多様な機会を使いながら、生徒が探究的に歴史を捉えていった経験について紹介させていただきます。
2025年11月社会科授業づくり講座 感想まとめ
(1)講師・小川輝光さんより
この度は、高校で取り組んできた地域のなかで歴史を学ぶ実践について紹介と意見交換の機会をいただきありがとうございました。今年度、主たる職場が中学高校から大学へと移りましたので、これまで取り組んできたことを振り返る良い機会となりました。また、参加者の方と新しい出会いも作っていただき、今後の交流が楽しみです。
2点質問がありましたので、回答させていただきます。
①校内において、社会科や関係他教科の教員、あるいは学年・学校全体の教員とどのような共通理解をもちながらすすめてきた実践なのか。
社会科では教科会議が毎月2回程度、総合学習では総合探究委員会やFW担当者会議という組織を立ち上げ、集団的に議論をする場があります。今回事例に挙げた、関東大震災の歴史と朝鮮学校交流、水俣でのフィールドワーク学習も、多くの教職員のみなさんの協力を得て進めてきました。震災時の校長の対応などは学校100年史に史料付きで盛り込まれることになり、自校史教育などの場面でふれられるようになっています。朝鮮学校との交流や慰霊碑要請について、SNSで批判的な書き込みがあった時も、校長先生が全校生に対して、その意義話してくれました。FWの授業は主に二人の教員で協力して取り組んできましたが、宿泊研修の事前事後学習という内容から、個人の学びを深める探究的な取り組みへの転換などは他の方面担当者と議論しながら進めてきました。今年度これらの担当を降りるとなった時も、引継ぎなどをしてもらい、学校文化となっていったように感じています。
②中学校、高校段階での歴史や地理、公民的分野の基礎的な学習、系統的な学習(例えば歴史学習でいえば通史学習等)を小川さんはどうあつかっているのか。
この社会科の授業づくりも、特に中学1年から高校1年までの必修科目は、教材を共同で作成してきました。中学1年では「世界の歴史と地理」、中学2年ではそれをふまえた「アジアの中の日本の歴史と地理」です。ここで歴史総合的な「私」の関心に引き付けた問いづくりや発表学習も行っています。中学3年では「戦後史」を現代の問題と捉え直し、高校1年まで現代社会を歴史的、地理的、経済的な視点で学ぶ学習として行ってきました。できるだけ「わかりやすく」「おもしろく」を基調に、「実際の社会を理解する」ことができる社会科を目指してきました。
今回、地域のなかで歴史とかかわり、歴史のなかに生きていると感じることが、社会をつくる一員という意識を育むのではという提案をしてきました。現在、分断や排外主義など取りざたされていますが、地域のなかで顔が見える者同士で、どういう社会を作っていくか一緒に考えることが大切だと、今回お話しさせていただいたなかで改めて考えました。
(2)参加者より
1.小川さんの実践についてくわしく知ることができ、たいへん有意義な機会となりました。
関東大震災の朝鮮人虐殺の実践に関して、「なぜ、流言が広まったのか」という問いからの学習はすでに広く実践で行われているような気がしますが、流言を信じない感想を書いた子の作文から「なぜ、流言を信じない子がいたのか」という問いにつながっていく点に興味をもちました。流言を信じた人と信じなかった人の差は何か、そもそもどのような状況で流言が広がっていったのかなど、学びが深くなっていく感じがします。地域の歴史は教科書にある一般的な歴史では説明のつかないことも多く、そこの意外性や矛盾などに学びのスイッチがあるのだと感じました。その他、「歴史の扉」のプリントにあった横浜の精糖会社、朝鮮人虐殺の慰霊碑を市に要望する活動、水俣のフィールドワークなど、貴重な話が聴けてよかったです。ありがとうございました。
2.感想を述べさせていただいた際にも申し上げましたが、自分は外国人の人権問題に関する研究を学部生の頃から継続しておりまして、とりわけ関東大震災時の朝鮮人虐殺や在日韓国人・在日朝鮮人問題を中心とした外国人排斥問題に関する教育実践史研究を博士前期課程から現在も行っております。ちなみに修士論文では『歴史地理教育』全冊を中心とした教育雑誌の内容を調査し、掲載されている外国人排斥問題に関する教育実践記録を分析しました。その点、本日は小川先生のご研究やご実践の内容からとても勉強になりました。また、歴教協の先生方が重視されてきている、地域に根ざす歴史を探究するという点についても、新たな学びがありました。
特に「困難な歴史」に関する点については小川先生の教え子の方々も仰っていたかと思いますが、地域に子どもたち自身が赴いて学習活動を展開していく点、世界にまで幅を拡大して交流を行っているという点も素晴らしいご実践だと感じました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
3.今日の参加者は学生、院生が多かった。小川さんに対しての質疑応答は、小川さんの実践してきた「地域の歴史とかかわる授業づくり」の意義・内容に関わっての質問や感想が多く、議論の中心はそこにあったように思う。また高校と大学の歴史学習の接続の問題や、高校で学校史等をあつかうことの現実的難しさの問題も出されていた。
小川さんからは一人一人の質問に対し丁寧な説明があり、質問していない参加者も、議論の展開につれて理解が深まっていき、講座は終了した。
今日は質問できなかったが、個人的には小川さんの実践=「地域の歴史と関わる授業」を成立させている背景を知りたいと思った。2点質問という形であげさせてもらう。
① 校内において、社会科や関係他教科の教員、あるいは学年・学校全体の教員とどのような共通理解をもちながらすすめてきた実践なのか
② 中学校、高校段階での歴史や地理、公民的分野の基礎的な学習、系統的な学習(例えば歴史学習でいえば通史学習等)を小川さんはどうあつかっているのか。
また小川さんと議論できることを楽しみにしている。
4.本日は貴重な経験をさせていただきありがとうございました。小学校の教職課程をとっており、地域学習について関心があるのですがどの様なことを実践すればよいか分からず迷っていました。しかし、本日の講座でいくつかの実践例を見させていただきイメージしやすくなりました。
百聞は一見にしかずという言葉があるようにフィールドワークが理解を深める上でとても重要に感じました。元生徒の方も仰っていたように地域の学習から授業で扱ったテーマに対し、関心を持ちアンテナを張れる様な授業を目指したいと思いました。
今日、聞かせていただいた話を今後の教材研究や指導案作成の授業に生かしていくことを今後の自己の課題としていきたいです。
5.小川輝光さんの授業で、地域は横浜と水俣を事例としてあげられ、教科書でなく、フイールドワークとともに歴史学習の具体例をしめしていただき、ありがとうございました。
わたしが興味をもったのは、横浜の震災作文に流言を信じなかった小学生の文章に、「「もらった米です」「そうか見せろ」「いえだめです」「何がだめだこれでもか」……朝鮮人はそれでも大事そうに小さい油紙につつんだ物をはなそうともしなかった」という部分です。
流言を信じなかった事例として、この文章は扱われたようですが、それとともに、この子はなぜ「米」に執着したのか、という問いが発せられてもいいと思いました。
朝鮮で生産された米のうち移出量は1921年には21.9%になり、1936年には51.4%に増えました。日本人警官・徴税官が農家に入ってきて「土の中に隠しているかどうか、地面を叩いて調べたり、家中を調ぺたりされて、見つかると、牢屋に入れられたり、拷問を受けたりしました(呉昞権の証言)」「我が田の米が我が物にならない。そんな農家の暮らしに愛想づかしをして、若い人たちの姿が村から消えていきました。大都会に出ていったり、満州や日本へ出稼ぎに行くようになりました(朴季根パクケグンの証言)」日本による食糧支配(日常)の一端が大震災(非日常)に露見している、と見ました。若い女性たちが「そこへ行けば学校にも通えるし、ご飯も好きなだけ食べられる。この際そこへ行ってみるのはどうだ、と言われ李さん(李玉善イオクソンの証言)」が、「そこ」は着いてみると慰安所でした。
6.11月講座「高校における地域の歴史と関わる授業づくりについて」では、多くの学びを得ることができました。貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。
講座後に自分でも調べたところ、地元・群馬県でも関東大震災時に朝鮮人虐殺が起きていたことを知り、今回学ばせていただいた内容を今後の授業づくりにぜひ生かしたいと強く感じました。関東大震災における朝鮮人虐殺については知識としては理解していたものの、具体的な事例にまで目を向けてこなかったことを痛感し、小川さんのお話を通して改めて丁寧に学び直したいと思いました。
また、授業づくりの面でも、朝鮮学校の生徒の方々と共に学ぶ機会を設けるなど、授業内にとどまらず、人と人とのつながりやそこから生まれる新しい価値観につながる取り組みに深い感銘を受けました。私自身も、その場限りでは終わらない学びを生む授業をつくっていきたいと感じております。
(3)司会より
今回で社会科授業づくり講座の進行役を務めたのは2回目となりました。至らぬ点が多々ありましたが、お忙しい中で11月講座にご参加頂いた参加者のみなさまには感謝を申し上げます。ありがとうございました。
高校で地域の歴史を扱うことに難しさもある中で、小川さんの実践は生徒の興味や関心を高めるような工夫がたくさんありました。小学校で学ぶ地域の学習とはまた違った観点から、地域の歴史を学習する必要があることを実感しました。質疑応答や感想の中で、学生のみなさんが活発に意見を述べており、実践を自分事として受け止めて話しているところが素晴らしかったです。それに対する小川先生の丁寧なフィードバックもあり、とても充実した時間でした。時間の関係で、現職の先生方の意見を聞けなかったのは申し訳なかったです。高校でどのような学習をしているか、小学校との関連も含めて考えさせられた2時間でした。